
飛行中の機体は摩擦により大量に帯電
飛行機に乗っているとき、客室の窓から主翼の後ろをよく見てみると、後方に向かって10cmから20cm程度の長さを持つ、針のような細い棒が何本も生えているのが一般的です。 【画像】「セントエルモの火」に包まれた「ジャンボ」 これは主翼だけではなく、機体後方にある水平尾翼や垂直尾翼にもあり、JAL(日本航空)によると、たとえば「ジャンボ」ことボーイング747型機の場合、あわせて50本以上、この棒が取り付けられているとのことです。 ANA(全日空)によるとこの棒は「スタティック ディスチャージャー」と呼ばれる安全装置で、飛行機が飛んでいる際に帯びる、静電気を空気中に逃がすための役割をもっています。 飛んでいる飛行機は、空気中のちり、雨、雪などをうけながら、ときには音速にも迫る高速で飛行しています。このとき、下敷きを頭にこすり付けると、摩擦によって静電気を帯びて髪の毛が浮くように、飛行中の機体も空気中の物質との摩擦により静電気を表面に帯びます。そしてその量は、スピードのぶん膨大です。 そこで機体表面に溜めこまれた静電気、いわゆる電荷をスタティック ディスチャージャーが空気中へ徐々に放電することで、安全な飛行をサポートしています。これは、電荷が細いものに集まりやすい性質を利用したものとのことです。
旅客機の翼の細い棒 なかったらどうなるのか
飛行機から電荷を逃がすこと、すなわちスタティック ディスチャージャーの最大の目的は、コックピットでパイロットが地上との交信などで使っている無線通信の雑音を減らすことです。 スタティック ディスチャージャーがない場合、溜まった電荷は、機体の表面や翼の端の部分などから、発光をともなう音の少ないタイプの放電現象、いわゆる「コロナ放電」が起きやすい状態となります。この放電の際に発生する電磁波の周波数には、航空無線で用いられる周波数帯が含まれているため、これが無線交信時の雑音を発生させる要因になります。 そこでスタティック ディスチャージャーを航空無線に支障がない位置に設け、通信をはじめとする、フライトに影響がないよう、電荷の流れをコントロールしているのです。 このほかスタティック ディスチャージャーは、避雷針としての役割もあり、飛行機が雷を受けても安全に飛行を継続できる助けにもなっています。 ちなみにスタティック ディスチャージャーがあっても、気象条件などによっては機体表面にコロナ放電が発生するケースもあります。ごくまれにこの放電の発生した部分が、まるで青白い光が包み込むように見え、この事象は古代の神話になぞらえて「セントエルモの火」と称されます。
乗りものニュース編集部
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May 21, 2020 at 12:13PM
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